我々はこれまで、脂質が形成するゲル状高次構造中でタンパク質の結晶化が促進される効果について研究してきた。本研究ではこれまでの研究をさらに発展させ、高分子ゲル中でのタンパク質の溶液挙動を調べている。さらに、ゲルの変形による内部の網目構造の変化が、そこに拘束されたタンパク質にどのような影響を与えるのか調べ、新たなタンパク質結晶化手法の開発へつなげることを目指している。本年度は、この目的のための観察用装置開発と、モデル系の構築を主に行った。具体的には、タンパク質として卵白リゾチームを、ゲルとしてタンパク質と相性のよいアガロースゲルを用い、ゲル内部でのタンパク質結晶化挙動を主に光学顕微鏡によって詳細に調べた。その結果、アガロースゲル中での顕著な核形成の促進効果を発見した。結晶過飽和度に対する効果は現在の定性的な研究の段階では不明である。今後はより定量的な実験を行い、ゲルの効果を詳細に調べていく予定である。さらに興味深い現象として、ゲル表面によるタンパク質結晶の配向効果を見いだした。これまでタンパク質結晶が磁場などによって配向することは知られていたが、このようなソフトな界面による配向は報告例が無く、そのメカニズムは今のところ不明である。今後、ゲル中の結晶化とゲル表面での結晶化を今年度に開発した動的光散乱装置を用いて詳細に調べ、そのメカニズムを解明する。その後、ゲル変形に対して内部のタンパク質溶液がどのように応答するのかに対して実験を行っていく。
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