研究概要 |
1. アミノ酸等へのβ線照射:ロシアのSnezhinsk研究所の^<90>Sr-^<90>Y線源(50 Ci)を用いて,アミノ酸(イソバリン・ヒスチジンなど)およびそれらの銅錯体などへのβ線照射を行った。金属錯体の方が、遊離アミノ酸よりもβ線照射に対して安定であることがわかった。照射後のアミノ酸金属錯体のCDスペクトルは、前年度ほ通常のCD分光器で測定したが、今年度は北京放射光施設の4B8真空紫外分光器で測定した。その結果、照射前と比較して、アミノ酸に由来するCDピークの増大が観測された。アミノ酸金属錯体をキレートディスクで脱塩した後、キラルカラムで分離したところ、ヒスチジン銅錯体に照射した場合(60%残存)約5%のD体のエナンチオ過剰、セリンコバルト錯体に照射した場合に7.6%のD体のエナンチオ過剰が検出された。以上の結果は、β線照射によりアミノ酸の不斉分解が起きたことを強く示唆するものである。 2. アミノ酸等への円偏光紫外線照射:分子科学硬究所UVSOR IIの自由電子レーザー(FEL)を用いて右および左円偏光紫外線照射(215 nm)をアラニン、ヒスチジン、イソバリンの水溶液およびそれらの銅錯体水溶液に照射した。今回の照射では装置の制約から十分な分解ができず、エナンチオ過剰は検出されなかった。ただし、アラニンの薄膜に左右円偏光を照射した場合には、CDスペクトルの変化が観測され、不斉分解が起きたことが強く示唆された。現在、照射量や溶液のpHを変化させた円偏光照射実験を行い、結果を解析中である。 3. β線によるアミノ酸の不斉創生が検出された。このエナンチオ過剰の増幅のためには、自己触媒反応が有効と考えられる。特にヒスチジンは酵素の活性中心に多く存在するアミノ酸であり、自身、加水分解触媒活性を有する。ヒスチジンを含む自己触媒反応系の探索を予定している。
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