放射壊変を用いた年代測定は、地球や隕石などの地球外物質ができた年代に客観的数字を与え、地球惑星科学の基本となる手法である。この年代測定は、鉱物中の親核種が一定時間で壊変して娘核種になる際の[親核種]/[娘核種]比の時間変化を利用するので、鉱物生成から現在までにその鉱物で親核種と娘核種の出入りがない必要がある。特に娘核種は、化学的な安定性とは無関係に、放射壊変という現象で鉱物中に無理やりに生成させられる。そのため娘核種は鉱物中で必ずしも化学的に安定ではない可能性があるが、その娘核種の局所構造を調べることはこれまで殆ど不可能であった。そこで我々は蛍光分光XAFS法を用いることで、天然で生成した娘核種の局所構造を調べることに成功した。本年度は、Re-Os壊変系に着目し、モリブデナイト(MoS_2)という鉱物中で187Reから生成した187Osの局所構造をEXAFS法から調べた。その結果、娘各種であるOsはReよりもサイズが小さくなることが分かった。結晶中でのイオンの拡散は、価数が小さくサイズが小さいイオンほど速い。ここで得られた187Osの性質は、親核種であるReに比べてやや価数が小さく、サイズも小さいことがXAFS解析から分かった。従って、モリブデナイト中で187OsはReに比べて拡散し易いことが分かり、モリブデナイト中でReと187Osの分布が異なる(decoupling)とする過去の報告と整合的である。本研究で明らかになった187Osの特異な構造は、このdecoupling現象に原子レベルでの裏づけを与えるものである。このことは、Re-Os年代測定を行う上で、レーザーアブレーション法でモリブデナイト試料の微小領域の年代測定を行うことは危険であることを示し、太陽系や地球の歴史に不可欠な年代測定法の確立にも、atomicな解析が必要不可欠であることが分かる。
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