本研究課題では、ε-Fe_2O_3ナノロッド磁性体の巨大な保磁力発現のメカニズム解明、金属置換による磁気特性の向上について検討を行った。ε-Fe_2O_3ナノロッド磁性体の巨大な保磁力は、異方性エネルギーとして磁気双極子-双極子相互作用と一イオン異方性という二つのパラメーターによって記述されることがわかっている。今回は、ε-Fe_2O_3ナノロッド磁性体をシリカ中で配向させることに成功し、酸化物磁性体では最高の保磁力を示した。ε-Fe_2O_3は、ゾル-ゲル法と逆ミセル法を用いて前駆体を作成し、空気中で焼成することによって、直径20±5nm、長さ60±20nmのナノロッドとして得た。このナノロッドをシリカ前駆体中に分散し、超電導磁石中で硬化させることによって磁化配向を行い、板状のシリカ中に磁性体が埋め込まれた試料を得た。得られた試料は、XRDより板状試料の垂直方向にα軸配向しており、TEM観察から外部磁場方向とロッドの長軸方向が平行に配列していた。磁気特性を測定したところ、保磁力は23.4kOeとなり、無配向試料の20.2kOeよりも大きな値を示した。ε-Fe_2O_3はα軸方向に強い一軸磁気異方性を持っており、ロッドの長軸はα軸方向であることがわかっている。従って今回、外部磁場によって配向し、ロッドの長軸方向に配向させることができたと考えている。得られた磁気データを元にした理論計算では、完全な配向体の場合は41kOeもの保磁力を持つことが予測され、本系ではさらなる高保磁力を得られる可能性を示している。酸化鉄は安価で安定であることから幅広い用途に活用されており、ε-Fe_2O_3はその高保磁力を生かして次世代の磁気記録材料として有効であると考えられる。
|