研究概要 |
昨年度に引き続き,成層圏の硫酸エアロゾルの循環機構を解明することを主な目的とし,安定同位体を用いた硫黄化学種の動態解明を行った.特に対流圏から成層圏で多く存在する硫化カルボニル(COS)の光解離過程による同位体分別係数の理論的決定を実施した.第一原理計算の結果から,COSの硫黄原子のみ変えた同位体種(CO^<32>S,CO^<33>S,CO^<34>S,CO^<36>S)に関し,紫外線の窓(190〜240nm)の低エネルギー側において質量依存が殆ど見られず,一定の値になることが判明した.その一方,高エネルギー側では硫黄原子質量に依存し,同位体分離を起こすと予想された.このような現象が予想されたことは世界的に初めてのことであり,今後の実験による確認が重要となると考える.また,炭素や酸素原子の同位体を変えた種に関しては,従来の予想通り,波長により同位体分離が大きく起こることも見出した. 次に,大気科学における光解離過程の解明をこれまで主に1997年にScience誌に掲載されたYungとMillerの零点振動準位エネルギーの差で行う方法が長年,脚光を浴び続けて来ていたが,本研究のもう一つの目的である「第一原理に基づく厳密量子動力学の実施こそが,その本質を捉えることができる」という主張を,地球物理関連で最も権威のある雑誌に発表することができた.その際,ノーベル賞受賞者であるR.A.Marcus博士に感謝したい. このような結果がこの2年間の研究成果となるが,平成21年度からこの研究を発展させる事業(平成21年度〜平成23年度環境省環境研究総合推進費研究課題名「温暖化関連ガス循環解析のアイソトポマーによる高精度化の研究」代表者吉田尚弘(東京工業大学)分担者南部伸孝(上智大学)総額300万円)を環境省のもとで始めることができた.
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