近年、ナノスケールの構造体に関する研究が急速に発展している。このようなナノ構造体は、溶液中で自己組織化して多量体を形成したり、そのナノ構造内の空孔に小さな分子を取り込んで包接錯体を形成する。また、ナノ構造体を鎖状につなげた系では、ナノスケールのらせん構造が出来上がるので、非常に大きな二次構造を持つ分子となる。申請者らは、有機共役ヘテロπ電子系およびその有機金属化合物とのハイブリッド材料を用いて、これまでに新しい超分子機能材料への展開を研究してきた。また、ナノスケールの構造体には、磁性電導性光物性という複合機能の発現も期待された。そこで本研究では、申請者がこれまでに研究してきたヘテロ原子を含む大きなπ共役系の合成とその新しい機能の解明をもとにして、ナノ構造体をマテリアルサイエンスの鍵物質として利用する基礎を築くことを目的として研究を行った。 上記の目的のもとに、具体的には(1)巨大環状オリゴチオフェンの合成と一次元および二次元集積体の調製と構造制御、および(2)磁性-伝導性を併せ持った強相関分子性導体のソフトマテリアル化を調べた。(1)については、チオフェンとアセチレン・エチレンから構成される巨大環状分子を合成して、その溶液物性を調べると共に、超分子会合体の生成を調べたところ、溶液状態で非常に大きな二光子吸収を示し、さらに固体状態では巨大環状分子の中で比較的小さな環状分子は単結晶を生成し、中くらいの環状分子は分子ファイバーや分子リボンのようなナノ構造を与えさらに、大きな環状分子はナノ粒子を生じることが明らかとなった。(2)については、テトラチアフルバレンに銅(II)ピリジン錯体を結合させた分子を合成して、テトラチアフルバレンのカチオンラジカルと銅(II)ピリジン錯体の分子内相互作用を調べた。このラジカル塩は、半導体程度の導電性を示すナノファイバーとなり、ESRスペクトルでラジカルと銅(II)スピンとの相互作用が観測された。そこで、現在さらに詳細に調べている。
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