環境負荷の軽減を指向した物質変換は、持続可能な社会を実現する上で化学者に課された命題の一つである。生体内における物質変換を担う酵素は、環境に調和した反応系を構築する上でまさに理想的な触媒ということができる。酵素の特徴の一つに水中での物質変換がなされていることが挙げられるが、近年、水中での有機変換反応が盛んに研究されている。その膨大な研究の背景には水の特異な性質、「高い誘電率、水素結合能」とともに、安価で安全であることが、多くの研究者を魅了した最大の理由であろう。しかし、真に効率的な物質変換を目指すのであれば、「環境に優しい」に終始する現状から一歩進んだ革新的なアプローチが不可欠である。本申請研究では水中反応のきっかけとなった生態系での物質変換、すなわち水中で機能する酵素に立ち返ったアプローチ、基質捕捉を鍵とする酵素模倣型触媒の設計開発を目的とする。基質捕捉に基づく酵素模倣型触媒の設計開発を主たる目的とする本申請研究では、触媒の分子設計がその成否を握ることになる。平成19年度はこれまで申請者が設計開発に取り組んできたビナフトール由来のリン酸触媒に焦点を絞り、その水中もしくは、有機溶媒/水との混合溶媒中における触媒機能の探索を検討した。水溶性のアルデヒドであるホルムアルデヒドを用いたアルドール反応の触媒化を検討した結果、有機溶媒/水の混合溶媒系において、リン酸が触媒として機能することを見出した。
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