研究代表者らは、20世紀初頭に開発された高温高圧という非常に厳しい反応条件が必要なエネルギー多消費型のプロセスであるハーバー・ボッシュ法に取って代わる、常温常圧の省エネルギー型反応の開発を最終目的として研究を行っている。この研究の一環として、常温常圧の反応条件下で窒素分子をアンモニアへと変換できる窒素固定酵素ニトロゲナーゼの多核構造に着目し、フェロセンに代表されるメタロセンを配位子に有するモリブデン及びタングステン窒素錯体を新規設計・合成し、これらの窒素錯体を用いた窒素分子の触媒的な分子変換反応に挑戦した。電子授受可能な鉄に代表される遷移金属原子が反応活性点であるモリブデン及びタングステンの近傍に存在させるように分子設計した配位子を用いることで、従来には無い興味深い窒素分子の分子変換反応の達成が期待できる。 フェロセンを配位子に有するモリブデン及びタングステン窒素錯体の合成方法の確立を行い、合成に成功したこれらモリブデン及びタングステン窒素錯体の触媒的な窒素固定能について詳細な検討を加えた。つまり、触媒量の窒素錯体存在下、シリルハライドとナトリウムをそれぞれ求電子剤及び還元剤として用いて常温常圧の窒素雰囲気下で反応を行うと、アンモニア等価体であるシリルアミンが効率良く得られることを見出した。興味深いことに、モリブデン窒素錯体を用いた時には従来のモリブデン窒素錯体を用いた場合と同等の反応性を示したが、タングステン窒素錯体を用いた場合にはTONで50以上とこれまでで最高の触媒活性を示すことが明らかになった。
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