[60]フラーレン(C60)は、次世代分子デバイスを構築する上で有利な条件を兼ね備えた物質の一つであるが、その有機合成化学は未だ体系化されていない分野である。C60の機能をより自在に制御するためにC60の官能基化反応は必須であるが、これは同時にC60の全共役性を崩す反応でもある。加えて、C60近傍にある官能基の反応は、溶解性や立体障害などの影響により思い通りに進行しないことが殆どである。上記の課題を考慮し、本研究ではC60のシクロプロパン化反応、ならびにシクロプロパン環上に導入されたホルミル基の化学変換反応に着目した。シクロプロパン環橋頭位炭素のsp2性のため、シクロプロパン化反応は、C60の化学修飾法のなかでも元来の性質に最もダメージを与えない手法である。また、ホルミル基はシクロプロパン化C60合成において無保護で導入でき、そのまま他分子との連結反応に利用できる唯一の官能基である。 ホルミルメタノC60の合成法は、我々が以前に開発したスルフォニウムイリド法のみが知られているが、収率や基質適応範囲に問題があることが分かっている。そこで新たな手法として、α-ハロシリルシリルエノールエーテル/フッ化物イオンより発生させたエノラートのC60への求核付加反応ならびに引き続く求核置換反応によるシクロプロパン化反応を試みた。その結果、幅広い基質において反応は効率良く進行し、優れたホルミルメタノC60の合成法となることが明らかとなった。次に、こうして得られるシクロプロパン化C60のホルミル基をWittig反応によりアルケンへ変換することを試みた。ホルミル基と縮合させるためのリンイリドとして安定イリドならびに準安定イリドを用いた場合、反応条件を最適化することにより良-高収率で目的アルケンが得られた。一方、不安定イリドを用いた場合には、リンイリドのC60炭素への求核攻撃が深刻な副反応となり、反応は低収率に留まった。
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