身の周りの立体はすべて三次元であるのに対し、非整数(無理数)で表されるフラクタル次元を持つ伝導体や磁性体を合成し、その伝導性や磁性が通常のバルク(三次元)試料とどのように異なるかを明らかにすることを試みた。調査対象としてCoOという反強磁性体を選んだ。H20年度は種々の次元D(2<D<3)を持つCoOの磁化率の温度依存性と磁化曲線を測定し、反強磁性転移温度へとDとの関係を検討した。H19年度末に浮上した、Dが低下していくと試料が予想以上に壊れやすくなり、磁性の測定およびDの評価に支障が出るという問題は、H20年度の検討により、非磁性の瞬間接着剤を試料内部および表面に満遍なく滲み込ませて固めること(磁性の測定)と小角中性子線回折というH19年度とは全く別の非破壊的手法(Dの評価)で解決できた。これによりDの大小に関係なくすべての試料の磁性とDを統一的に再現性良く評価できるようになった。得られたT_NとDとの関係(グラフ)を、ハイゼンベルグモデルとフラクタル理論を組み合わせて、数学的・定量的に説明した。この結果、バルク(D=3)の磁性体とそれ以外の磁性体とでT_Nに差が生じることが、本質的に格子の次元性と関連している(実験誤差や他の要因によるものではない)ことが証明された。更に直感的には理解しがたい、非整数次元を持つ試料という概念を、格子の次元とその上に欠陥を伴って配列されたスピン系の次元とに分けて考察することで、現実の反強磁性体のナノ粒子や薄膜で観測されているT_Nの低下を統一的に説明することができた。以上の成果は国際的に評価の高い物理学の専門誌に論文として投稿され、掲載可否の判断を待っている段階である。
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