研究概要 |
本研究では、分子クラウディング環境下において、テロメアなどの核酸の物性を定量的に解明することを試みた。核酸の二重鎖構造の形成を速度論的な観点から検討した結果、核酸の二重鎖構造の解離反応速度が分子クラウディングによって速くなり、二重鎖構造が不安定化することが明らかになった(Chem.Commun.,2007,2750)。また、核酸の二重鎖構造を負不安定化させる分子クラウディング剤を開発し、この分子クラウディング剤によって、GC塩基に富んだDNA配列に対して高効率なPCRを実現した。さらに、テロメア核酸の四重鎖構造の熱力学的安定性に及ぼす分子クラウディングの効果を定量した。その結果、平行型と逆平行型の四重鎖構造が、分子クラウディングによって安定化することが明らかになった(Nucleosides,Nucleotides,and Nucleic acids,2007,26,589)。前述の二重鎖の結果との比較から、このような核酸構造の分子クラウディング環境下における熱力学的安定性は、核酸構造の水和状態の違いに由来する可能性が示唆された。 また、分子クラウディング以外の細胞内環境因子であるカチオンに関しても、核酸構造の熱力学的安定に及ぼす影響を定量的に解明することができた(Bull.Chem.Soc.jpn.,2007,80,1987)。同時に、化学的に修飾したテロメア核酸を設計し、その構造を金属イオンで自在に制御することにも成功した(J.Am.Chem.Soc.,2007,129,5919)。このように、本研究における平成19年度の目標を十分に達成できた。
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