外部からの刺激により、後天的に素子特性を変更することが可能な分子回路の構築を目的に、酸化還元活性を持つビオローゲン分子の両側にアルキル鎖(n=3、6、12)を介してチオール基を導入したワイヤー分子を合成するとともに、これらの分子と、平均粒径約3.3nmの金ナノ粒子との間にネットワーク状の構造体を形成した。ネットワークが付着した電極を電解質溶液に浸し、電位を掃引することにより、ネットワーク中のワイヤー分子のビオローゲン部の酸化状態が変化することを、サイクリックボルタンメトリー、紫外可視吸収スペクトル、電子スピン共鳴スペクトルによって明らかにした。ネットワークを電極間隔2μmの櫛型の金電極上に調製し、導電特性を検討したところ、室温付近では金ナノ粒子の荷電エネルギーに基づく熱活性型の温度依存性を示すものの、30K以下の温度領域ではその温度依存性が顕著に低下する挙動を示した。低温領域における電流-電圧特性が3次の非線形性を示したことから、この領域ではコトンネリング伝導が支配的であることが判った。このネットワークを電解質中で還元及び酸化したところ、還元体生成時には抵抗が約3桁低下し、酸化するとほぼ元に戻る挙動が観察された。金ナノ粒子ネットワークにおいては、金ナノ粒子がクーロンプロッケードとして動作するとともに、電子はその間の分子上をトンネル伝導すると考えられることから、以上の結果は、分子ワイヤーのネットワーク中でビオローゲン分子を還元することによって、ビオローゲンワイヤーのトンネル抵抗が低下し、全体の抵抗が低下したためと解釈される。
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