有機薄膜FET素子において、室温で電荷の注入が起こるゲート電圧を印加し、そのまま温度を低下させると、低温(その物質によって異なる)において、その電圧を閾値とするFET特性が観察される現象を見出した。例えば、室温で立ち上がりのゲート電圧がOVのp型半導体特性を示す有機薄膜FET素子に、ゲート電圧-10Vを印加した状態で温度を低下させ(例えば100K)、その後FET特性を計測すると、立ち上がりのゲート電圧が-10Vの素子として動作する。キャリヤーが注入される領域であれば、任意の電圧に立ち上がり電圧を設定することが可能であり、p型n型を問わず、両極性を示す場合には、正負任意の電圧に設定することが出来る。この現象が、有機薄膜内に注入された電荷がトラップされ、電気伝導に寄与しなくなるだけでなく、あたかも不純物イオンと同様に作用するためであることを明らかにした。このことは、有機薄膜FET素子の性能を低下させるバイアスストレス効果の原因を明らかにしたと同時に、その克服法を示すばかりでなく、FET素子の重要な特性であるしきい電圧を任意に設定できる手法を開発したことを意味している。さらに、電気的にpドープまたはnドープを行い、その状態を保持できるため、メモリー素子としても利用可能であるが、そればかりでなく、両極性半導体物質を用いてnドープ領域とpドープ領域を接したPN接合を形成し、ダイオード特性を発現させられる事も確認した。これを利用すれば、1種類のデバイス構造だけで、デバイス形成後に様々な機能を発現させる事が可能になる。まさに、後天的に回路特性を変化させることの出来る、「学習する分子回路」に繋がる重要な成果といえる。
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