研究概要 |
本年度は,ReNx系も含め窒化物系の総括をおこなうとともに,エピタキシーによる物性制御をねらう本研究の基点となったCrNに立ち返って検討を行った.以前のPLDによる薄膜成長とは別に電子ビーム加熱と窒素ラジカル照射を組み合わせたMBEによるCrN薄膜の合成を行った.MgO(001)およびα一Al_2O_3(001)にそれぞれCrN(001), CrN(111)配向膜が成長した.X線回折逆格子マッピングおよび煽り角を用いた非対称反射の測定から求めた格子定数から,CrN(001)薄膜ではミスフィット転移により格子が完全に緩和していること,CrN(111)薄膜でもαが90度に極めて近くほとんど歪みのない膜であることがわかった.これらの薄膜の電気伝導度測定では,これらMBEによる薄膜では反強磁性転移にともなう異常点がみられた.一方,PLDによるCrN(111)薄膜はα=89.3度と応力によるとおもわれる歪みが生じており,転移も消失している.基板の束縛の効果とともに,反強磁性によりバルクで生じる構造歪みとは異なる方向への応力が転移の消失に関与している可能性がある.CrN(111)膜のX線逆格子マップには鋭いCrystal Truncation Rodが観測されており,この薄膜はlateral correlation lengthが十分に広い部分を含んでいることを示唆する.この結果の差異は本質的な問題を含んでおり,詳細な検討をすべき重要な問題である.基板と薄膜の相互作用による磁性・構造転移の制御という意味で階層化した構造による重要な機能発現と考えられるので,進行中の課題(20350095)でさらに解析を進める計画である.以上,本研究により,基板のエピタキシー効果による顕著な物性変化を示す系の物性科学において基礎的かつ重要な端緒をつかむことができ,今後の研究展開につなげることができた.
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