研究概要 |
本研究では、電気化学的アプローチにより有機材料表面に無機結晶を析出させて複合化させる手法について提案し、これを推進している。これまでに直流あるいは交流電場をイオン溶液に与えることによって、イオンの拡散を規定し、有機-無機複合化を検討してきた。本年度は交流電場を多孔質膜に作用させることにより、炭酸カルシウムのみならずリン酸カルシウムの結晶形態制御を膜の両面において規定することに成功したので報告する。具体的には、親水化処理が施されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE,膜厚0.04μm)からなる多孔質膜(平均孔径100nm)をツーチャンバーセルに挟み、左右のセル内に目的の無機結晶を構成するイオン水溶液を注入した。炭酸カルシウムの場合においては、塩化カルシウム水溶液(10mmol/L)と炭酸ナトリウム(10mmol/L)を、リン酸カルシウムの場合には塩化カルシウム水溶液(10mmol/L)とリン酸水素二ナトリウム水溶液(10mmol/L)をそれぞれ用いた。白金電極を介して交流電場(10V/cm)を所定時間印加し、PTFE膜表面に無機結晶を析出させた。その結果、炭酸カルシウム析出の場合において、塩化カルシウム水溶液接触面では熱力学的に不安定な炭酸カルシウム結晶多系の一つであるバテライトが優先的に結晶化し、炭酸ナトリウム水溶液接触面では斜方晶を有するカルイトが結晶化していた。さらにリン酸カルシウム析出の場合において、塩化カルシウム水溶液接触面ではハイドロキシアパタイトが結晶化し、リン酸水素二ナトリウム水溶液接触面ではリン酸二カルシウムが結晶化していることがそれぞれ認められた。このようなPTFE膜の両面での異方的な結晶化は交流電場印加下における水溶液の電気分解に起因したpHのわずかな変動が作用していると考えられた。両結晶化に共通しているイオン源である塩化カルシウム水溶液が、電気分解により弱酸性にpHが変化する。これに伴って生じる過飽和が膜の両面で異なる結晶形態を誘起すると結論づけられた。以上の研究成果は国際論文誌、総説により情報を発信し、広く公開した。
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