酢酸菌Acetobacter xylinumは、幅0.5-1.0μm、長さ2-10μmの好気性のグラム陰性細菌で、微生物セルロース(マイクロビアルセルロース)とよばれる幅約50nm、厚さ約10nmのセルロースナノファイバーを菌体外に産生することが知られている。酢酸菌は、セルロースナノファイバーの噴出エネルギーを駆動力としてファイバーの噴出方向とは反対方向へ走行する。研究代表者らは、この現象を制御、利用することで、パターンを有するセルロース三次元構造体を構築する研究を遂行してきた。 三次元構造体の応用をさらに展開するため、酢酸菌に、免疫賦活作用を有することで知られる天然多糖である(1→3)-β-グルカンを産生させることができないかと考えた。そこで、本研究では遺伝子導入により酢酸菌に(1→3)-β-グルカンを生合成させることを目的とした。すなわち(1→3)-β-グルカンの合成酵素遺伝子を挿入したプラスミドベクターを酢酸菌へ導入して形質転換し、酢酸菌に(1→3)-β-グルカンを生合成させる。 その前段階として、今回は酢酸菌への遺伝子導入の条件を設定するため、遺伝子挿入前のプラスミドベクターpTrc99A(PTA99)をエレクトロポレーション法により酢酸菌へ導入する検討を行った。その結果、AY201株へのプラスミドベクターの導入が可能であることがわかった。また、プラスミドベクター導入時の処理電圧とプラスミドベクターの導入によりアンピシリン耐性を獲得した酢酸菌数の指標となるアンピシリン添加寒天培地上での培養により形成されたコロニー数との関係から、処理電圧が低くなるほど酢酸菌へのプラスミドベクター導入の頻度が高くなることがわかった。これらのことから、AY201株を用いた遺伝子導入による形質転換への可能性が示唆され、セルロースナノファイバー以外の物質も同時に生合成するキメラ酢酸菌の創製へつながることが期待された。
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