量子効果は通常デジタル情報処理においては不確定性原理のためにマイナスであるとされている。例えば、1つの電子スピンのメモリを想定すると、その緩和がexp(-γt)の形をとる限り、測定してリフレッシュしてもメモリ持続時間が長くなることはない。しかしながら、短い時間では指数関数型の緩和からのズレがありexp(-αt^2)となることが知られている。このことを用いて短い時間で測定(観測)を繰り返せば、いわゆる「量子ゼノン効果」によりズレが持続し、メモリを飛躍的に永くすることができる(例えばM. C. Fischer et. al. Phys. Rev. Lett. 87(2001)040402)。更に、量子情報処理で確立している量子誤り補正を応用することもできる。また量子情報処理と異なり、多数決処理のような手法と量子誤り補正との組み合わせにより全く新しいメモリ保持の可能性も開ける可能性がある。 本研究では特に量子Zeno効果による電子スピンのデジタルなメモリ延伸の可能性を調べるために1スピンの非指数関数的減衰を観測することを目的とし実験的検討を行った。 スピンの安定に存在する量子構造の形成を検討した。具体的にはSi不純物を添加した量子井戸構造の作製を行った。また、電極により量子ドット中の電荷状態を制御するために、量子ドットを含むダイオード構造を試作した。更に、bright excitonとdark excitonにより逆ラムダ遷移を実現するために、フォークト配置での励起子エネルギーの磁場依存性を測定し、2つの遷移間のエネルギー差が400μeV程度と非常に大きな中性励起子を選別することに成功した。
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