代表的な蛋白質である卵白リゾチームを取り上げ、異なる結晶構造の単結晶の育成、並びにその結晶の温度、湿度などの外部環境による変性や脱水に関連した構造の変化に起因するダイナミクスを研究室独自の顕微ブリルアン散乱法を中心として調べ、併せてラマン分光法、時間領域テラヘルツ分光法、動的熱容量法などにより様々な新しい知見を得ることができた。最初に、リゾチーム水溶液と反応性が低く高密度のフロリナートとの界面を利用した二液界面法により、結晶性の高い正方晶系、斜方晶系、単斜晶系の3種類の卵白リゾチームの大型結晶成長に成功した。育成したこれらのリゾチーム単結晶を用いて、液体窒素温度から高温にかけての温度範囲において、これらのタンパク質結晶、並びにタンパク質水溶液中のフォールディング状態のタンパク質分子が中間状態をへてアンフォールディング状態へと転移し、さらに高温では会合が進んでゲル状態へと転移する過程を顕微ブリルアン散乱法により詳しく調べた。その結果、非弾性散乱スペクトル中のブリルアン成分より音響フォノンの位相速度、音波吸収係数を温度、蛋白質濃度の関数として正確に決めた。また水和水の影響を調べるために等温条件下における脱水過程も調べ、アブラミの式によりその過程の2次元から3次元への次元性の変化を見出した。これらの弾性定数、緩和時間、活性化エネルギーなどの物理量の多くは、水和状態のタンパク質の研究ではこれまでほとんど測られたことのない量であり、生命科学の進歩に寄与できると考えている。
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