まず、本研究全般にわたって定量的かつ高信頼度のデータ解析を行うための準備として、実験像におけるシリコン原子列の強度揺らぎとドーパントアンチモンによる強度の増加を明確に識別できる閾値を設定することに成功した。具体的には、様々なシリコン膜厚で、しかも電子線に対する様々な深さ位置にアンチモンがある場合について、シミュレーションでの強度計算を行い、膜厚10nm以下であればどのような場合でも解析可能であることが明らかとなった。 次に、アンチモンの拡散のkineticsを解明するために、シリコン結晶内でのアンチモン存在位置の解析を行った。これは、シリコン結晶中のアンチモン原子は8〜9割が置換位置に存在するとされているものの、原子空孔など他の点欠陥との複合体を形成した場合、格子点位置からの変位が予測されているためであり、この種の形態がドーパント拡散に重要な役割を果たしている可能性が指摘されているためである。実験像で観測されたアンチモンはほとんどが置換位置に存在すると思われるものであったが、幾つかの特徴的なコントラストを示す像も発見された。これらが、従来解析の困難であった上記の僅かな原子位置変位を精密に捉えたものであると考えられる。試料厚さ等の効果も十分考慮した計算機シミュレーション像との詳細な比較により、最も単純な二つの構造モデルについて検証した結果、観測された像とは対応しないことが明らかとなった。現在までに提案されている別の構造モデルについて、検証を進めている段階である。
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