化石燃料に頼るエネルギー供給は今や転換期を迎えており、次世代を担うクリーンエネルギーの創出は焦眉の急である。本研究は、ナノ熱電材料の新たな低温合成法の確立を目指し企画された。固体表面に低速イオンを照射し、表面原子をはぎ取るスパッタリングは、一般的には破壊過程として知られる。しかしながら、イオン照射時に、新たな元素を極少量連続的に供給することで、破壊過程に「成長過程」が加味され、ナノ材料合成法、ナノ構造形成法としての利用が可能である。本研究では、このイオン照射法を用い、熱電材料として知られるSi-Ge合金のナノワイヤーアレイ(NWA)を始めとする、種々の1次元NWAを作製する技術を確立し、物性データの蓄積を図る。 1)Si-Ge系ナノワイヤーアレイ(NWA)の合成:研究の迅速化、効率化を図るため、合成には既設イオン照射装置を活用し、NWAの合成基礎実験を行った。合金系NWAの前段階として、Si、Geそれぞれについて、ナノ構造形成に取り組んだ。何れの場合も、粒子供給を伴わない場合には、形成されるナノ構造は円錐状突起のみであった。これに対し、同種元素の粒子供給を伴う場合、とりわけGeでは、基板温度200℃以下であっても、ナノロッド、ナノベルト、ナノウォール等の新たなナノ構造体の高密度形成が可能であった。また、少量の金属粒子供給を伴うイオン照射でも、円錐状突起以外のナノ構造体の高密度形成が可能であった。 2)その他の1次元熱電材料の探索:室温合成カーボンナノファイバーをテンプレートとすることで、酸化物ナノニードルの高密度形成が可能であり、異種金属種のナノニードル内への分散も実現された。この材料では、光学的な応用も見いだされた。また、本イオン照射法により、超高密度NWA(直径50nm程度、ミクロン長)の形成が可能な材料も見出すことができた。
|