(1)波長1nm前後の中性子を想定し、中性子顕微鏡用集光ミラーと対物ミラーの設計・製作を行った。それぞれのミラーは軸対称の筒状双曲内面と楕円内面を連結したウオルター型ミラーを採用した。X線の全反射を利用しているので、X線の平均斜入射角は7mrad前後、ミラーの倍率は1/4倍(縮小用集光)と8倍(拡大用対物)で、全体の光学系の長さはおよそ2m60cmである。 (2)ウォルターミラーは、順に(a)母材(タングステンカーバイド)のNC旋盤による雄型ミラーの研削・研磨、(b)真空成型レプリカによるパイレックスガラス製ミラー(内径10mm、長さ40m)の作製(c)ミラー内面のNi蒸着で作製した。Niの内面蒸着では、レーザーアブレーション法と通常の真空蒸着法を試みた。Niは中性子の斜入射反射率が他の物質に比べて著しく大きい。 (3)レーザーアブレーションは、筒状のミラー内に蒸着ターゲット用Ni線を配置し、励起用KrFレーザーで溶融蒸発させて行った。Niの内面コーテイングには成功したが、デブリの影響でミラー全面にわたる均質な薄膜形成には至らなかった。面粗さはおよそ5nmが得られた。レーザーアブレーションによる筒状内面コーテイングの試みは世界で初めての技術である。 (4)真空蒸着法では、タングステン線にニッケル細線を巻き付けたヘヤピン状のフィラメントを筒状のミラー内に挿入し、内面蒸着を行った。面粗さはおよそ1nmが得られ、実用的な面粗さ精度が実現できた。 (5)中性子の波長に近い3nm前後の軟X線をレーザープラズマによって発生させ、真空蒸着法内面コートミラーの結像評価を行った。集光ミラーと対物ミラー双方ともに軟X線の集光に成功した。 (6)本研究によってミラーを利用した中性子顕微鏡の可能性が示された。
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