研究概要 |
本研究では、細胞内部に金属ナノ構造を直接インジェクションし、細胞内にある分子からの表面増強ラマン散乱光を検出し分光分析することで、生体分子を染色することなく直接観察・分析し、細胞の生命機能を可視化することを目的としている。本年度は、金属ナノ構造を細胞内にインジェクションする技術の確立と細胞内からの表面増強ラマン散乱光を検出する光学系を構築した。インジェクション法には細胞の貪食作用とマイクロインジェクターによる強制注入について検討を行い、どちらの方法でも細胞にダメージを与えることなく金属ナノ粒子をインジェクトできることを示した。また光学顕微鏡をベースに暗視野観察とラマン観察を行える光学系を開発し、金属ナノ粒子による生体分子からの表面増強ラマンスペクトルが測定できることや分子固有のラマンバンドに観察波数を設定することで分子イメージングが行えることを確認した。照明光学系の最適化も行い、偏光選択的に散乱光を検出することを可能とした。さらに、形状や大きさ、金属種がそれぞれ異なる金属ナノ粒子を細胞内にインジェクトしたのちラマン散乱光を測定し、細胞内への取込み収率、励起光源(532nm,780nm)に対する非蛍光性、ラマン散乱能等を精査した結果、50nm径の金ナノ粒子が適しているとの結論を得ることができた。これら実験を通して、金ナノ粒子に誘起されるプラズモンの局在性により、金ナノ粒子近傍の分子からだけラマン散乱光を検出することができることで、集光スポットよりもはるかに微小な領域だけを空間選択的に観察できることを明らかした。この結果はナノイメージングの可能性を示唆するものである。さらに、細胞内のcytochrome cの共鳴ラマン散乱光を検出し、特異値分解を利用したノイズ除去と多項式フィッティングによる背景光除去を施すことで、cytochrome cの細胞内空間分布をイメージングすることにも成功した。
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