研究概要 |
骨梁の微細組織である骨細胞・破骨細胞・骨芽細胞からなる骨系細胞ネットワークと周囲の骨小腔一骨細管系は,主に荷重が負荷される方向,すなわち骨梁配向方向の直交方向に発達した形態異方性を有する.この異方性により骨細胞の力学刺激感知感度を向上させ,骨梁表面で骨吸収・骨形成を担う破骨細胞・骨芽細胞への迅速・優先的・効率的な情報伝達を可能にしていると考えられる.本研究では,骨微細構造の形態異方性,およびリモデリングの力学的階層性が,骨の再生と機能的適応のメカニズムにおいて果たす役割を検討するとともに,骨の自律的・適応的リモデリング現象に基づいて,複合材料のスマート化原理を探ることを目的としている.本年度の成果は次のように要約される. 1)骨基質に埋め込まれた骨細胞は,骨小空一骨細管系の内部に存在し,細胞突起を介して三次元状のネットワーク構造を形成しているとしてモデル化した. 2)骨細胞の周囲は間質液で満たされ,骨に力学的負荷が作用すると,骨基質の変形により間質液に流れが生じる.この流れを把握するため,多孔質弾性論を用いた. 3)上記の解析に必要となる透水係数テンソルは異方性を有するが,実験的に求めるのは困難である.そこで,骨細管形態の異方性から推定した.共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡を用いて骨梁断面の観察画像を得た.次にvolume orientation法により形態を定量評価し,局所的な骨細管の配向を示すファブリックテンソルを得た.このファブリックテンソルが局所的な流速に比例すると考え,異方性の透水係数テンソルを得た. 4)多孔質弾性論を用いて間質液の流体せん断力を評価し,それを骨細胞への力学刺激とみなすリモデリンの数理モデル構築に着手した.
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