研究概要 |
塑性加工を施した微細結晶粒を有するMg合金において確認された降伏現象に似た明瞭な降伏点の発現機構を解明するため,Mg合金粉体を取り上げ,繰り返し塑性加工(RCPプロセス)を用いて押出材の結晶粒径と集合組識(結晶配向性のランダム化)の影響について引張試験とEBSP解析により系統的に調査を行った.RCP加工によりMg合金粉体に対して等方向的に加工歪を導入・蓄積した後,熱間押出加工を施した板状素材について引張強度特性の面内異方性と組織および集合組織を評価した.その結果,動的再結晶後の組織は1〜3μm程度の微細な均一等軸粒を呈しており,RCP加工回数の増加に伴って耐力は増加すると共に,加工回数N≧30において降伏現象が確認され,その値は汎用マグネシウム合金AZ31Bにおいて270〜300MPaと従来製法により作製した同組成合金に比べて約30〜40%の耐力増加を達成した.引張方向に平行な方向(0°)と板幅方向(90°)で比較すると,N値の増加に従い両者の耐力の差は最大で約28%まで減少し,板状押出素材における面内異方性の解消効果を確認した.同時に(0001)底面配向は緩和し,平均シュミット因子は0.22(N=0)から0.35(N=50)に増加したことからRCP加工によりMg押出材における集合組織のランダム化を実現した.引張試験後の組織観察の結果,RCP加工を施した試料の破断面近傍において,双晶の発生個数(密度)はRCP加工を施さない粗大粒を有する試料に比べて少なく,変形過程において粒界滑りが生じた結果,高い伸び値を発現した.ただし,粒界には30〜100ナノメートルオーダーのAl-Mn系微細化合物粒子が存在しており,これら400℃付近での粒成長を抑制すると同時に,引張試験過程での耐力向上および降伏現象発現に寄与したものと推察できる.
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