室温動作、高感度、高速応答の性能を有するテラヘルツ波(THz波)検出は、十分な開発がなされておらず、有効なTHz波検出技術の開発が期待されている。本研究課題では、非線形光学効果を利用した実用的なTHz波検出を提案する。前年度では、非線形光学結晶に高効率なMgO:LiNbO_3単結晶を用い、結晶表面に対しTHz波を垂直に入射させる光学配置での位相整合条件を考案し、高効率にTHz波から近赤外シグナル光(~1071nm)への波長変換を行った。シグナル光をInGaAs光検出器で検出し、室温動作で、高感度・ナノ秒応答速度を有するTHz波検出に成功した。 本最終年度では、THz波の位相に基づくコヒーレント検出を行うべく研究を行った。実験では、検出タイミング(位相)を変化できるよう、THz波パラメトリック発生器からのTHz波出力を光学的距離遅延路に通す光学配置にした。一方、検出用結晶で波長変換された近赤外シグナル光は、位相参照光としてTHz波パラメトリック発生器でTHz波と同時に発生したアイドラー光を利用して、バランス型ヘテロダイン検出方法で計測した。このとき、励起光は、発生器を通過したあと、検出器で再利用しているため、位相参照光として利用している。結果、THz波に対する光学距離を変化させ、THz波の位相変化に伴う検出信号の振幅を計測し、波長~190μm(1.58THz)と波長~170μm(1.76THz)において、位相に対応した振幅値を得ることに成功した。 本研究課題では、非線形光学効果を利用し、THz波から近赤外光へと波長変換し検出する方法を提案した。成果として、室温動作で、高感度、ナノ秒応答のTHz波検出に成功し、かつ位相情報も取得するコヒーレント検出も実現した。これら成果は、THz波計測の発展につながるものであり、今後の展開に期待する。さらに、広いTHz波長帯域をカバーする有機非線形結晶DAST(4-dimethylamino-N-methyl-4 stilbazolium tosylate)を用い、励起光として波長1.3μm帯を利用すれば、超広帯域なTHz波検出が期待でき将来の課題としたい。
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