研究概要 |
本年度はカンボジアの農村を対象として現地調査を行い,得られた血液サンプルからヘリコバクター,カンピロバクター,アデノウイルスに対する抗体を検出することで水系感染症の発生状況を把握した.さらに,飲用水の水質と抗体陽性率との関係を明らかにし,感染リスクを低減できる水利用方法について検討した. ヘリコバクターは一度ヒトに感染すると胃に常在し,生涯に渡って抗体が検出されるため,抗体陽性率は年齢に伴って増加する.全年齢を通しての抗体陽性率,すなわち対象地域のヘリコバクター罹患率は84.5%であった.この結果から最尤法を用いて年間感染確率を推定したところ,8.4%となった.先進国における年間感染確率が0.5%といわれていることから,この農村の年間感染確率は非常に高いといえる.カンピロバクターについては感染後,1〜2年で抗体価が減少することが知られている.よって,抗体陽性であることは過去1〜2年の間にカンピロバクターに感染したことを示している.全年齢を通した抗体陽性率は1.6%であり,現地ではここ1〜2年の間に大きなカンピロバクターのアウトブレイクは発生していないことがわかる.アデノウイルスの抗体陽性率は99.0%であり,住民のほとんどが抗体を保有していた.アデノウイルスもヘリコバクターと同じく,一度感染すると生涯に渡って免疫を持つため,年齢に伴って抗体陽性率は増加する.この農村では,生後2〜3年以内にほぼ全住民がアデノウイルスに感染していた. ヘリコバクターの感染に影響を与える暴露因子を評価するため,オッズ比を用いたひょうかを行った.その結果,飲用水中から大腸菌群が1CFU/mL以上検出された集団は,検出されない集団に比べてヘリコバクターの感染リスクが約5倍も高かった.この結果により,大腸菌群が検出されない水を飲用することで,ヘリコバクター感染のリスクを低減できることが示唆された.
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