被災した鋼架構の耐火性能に着目すると、構造部材の地震による損傷は架構の火災時鉛直力支持能力に影響する。一方、内壁は、火災時、延焼を防止する役割を担うから、壁の地震による損傷は火災に対する区画保持能力に影響する。これを踏まえ、震害を被った鋼構造物が直後に火災を受けることを想定して、その終局的な耐火性能を明らかにすべく、昨年度から継続して、次の2点に着目する研究を試みた。 課題1.地震によって損傷を被った石膏ボード壁の耐火性能を、実大加熱試験によって把握する。課題2.地震によって損傷を被った鋼架構の崩壊温度を、理論的・解析的に明らかにする。 本年度の成果・実績をまとめると次の通りである。課題1では両面貼り石膏ボード乾式壁を取り上げ、壁の常温下加力試験と当該被災壁の加熱試験をこの順番で行った。通例のボードは1/75を超える面内せん断角を被ると面外に座屈する。一方、ボードを下地スタッドに沿って縦貼りとすると、ボード単体毎のロッキングが顕在化し、ボードの応力状態は面外座屈が発生するほどの大きさには至らなくなる。スタッドの寸法を増しても面外座屈を抑制できる。壁を一方から加熱すると、その耐火時間は加熱面側ボードが脱落する時間に依存する。脱落に抗する壁のボード間接合力は地震被災によって劣化し、これに対応してその耐火時間も低下するが、ステープルの増し打ちによってボード間接合力を強化すれば、地震被災による耐火時問低下を解消し得る。 課題2では、設定する地震被害として、昨年度検討した永久水平層間変位に加えて、さらに梁端の一部が破断している場合の火災時崩壊温度を、有限要素解析および単純モデルを用いた理論解析の両面から検討した。耐震設計を施されている、永久層間変位は再使用可の枠内にあるという2条件を架構が満たしている限り、梁端破断による崩壊温度の低下は有意ではないことが見出されている。
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