人間は、(1)自然環境、(2)社会-文化環境、(3)人工環境、(4)情報環境という、幾つもの異なるレベルの環境に重層的に包まれて生きている。生活環境は、こうした多層に及ぶ人間と環境とのダイナミックな関係(人間-環境系のセミオーシス[semiosis;記号現象、記号過程])によって構成されている。 本研究の目的は、人間-環境系におけるデザインの問題を対象として、記号工学(semiotic engineering)の視点から創発システムのモデルを構築し、そのシミュレーションを実行すると共に、新たなデザインの可能性を探求することにある。 本年度は、次のような研究課題について研究を進めた。 (1)人間-環壌系のデザインの定式化 (2)記号工学の視点からみた創発システムのモデル化創発システムの工学的研究と記号論を融合した記号工学を探求するための理論モデル(セルオートマトン、マルチエージェントシステム、メタファー、アブダクション等)の研究を行った。 (3)類似と差異のネットワーク 創発システムの事例として、自然物から人工物に至る多様な要素の集合からなる街並み景観を取り上げ、有限の要素から無限の景観を創発する離散無限(discrete infinity)の仕組みを分析した。 (4)ミクロとマクロの相互作用 セルオートマトンに基づいて都市空間の自己組織化モデルを構築し、そのシミュレーションを通して、ミクロとマクロの相互作用の研究を進めた。 (5)記号過程としての設計プロセス 設計プロセスにおいてアイデアが創発するプロセスに焦点を結び、実際の設計事例や設計実験を通して、設計プロセスを記号過程として記述し、特にメタファーやアブダクションの仕組みを探求した。
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