研究概要 |
大量消費による化石燃料の枯渇や,その燃焼により排出されるガスによる地球温暖化が深刻な社会問題となっている.これらの問題を緩和する方法として,近年,熱電変換材料の利用が脚光を浴びている.しかし,熱電材料のエネルギー変換効率は高くないために,現状では,熱電発電は極く限られた状況でしか利用されていない.熱電材料の特性を向上させることで大規模熱電発電システムを実用化することが,21世紀の材料研究者に与えられた重要な課題である.本研究では,研究代表者の提案する新しい熱電材料設計指針(2次元伝導を示す六方晶化合物の利用)が有効であることを実験的に証明し,さらに,2次元伝導を示す一連の六方晶化合物を用いて新しい高性能熱電材料を創製することを目指す.平成19年度に行った研究により,2次元電気伝導を示す典型的な六方晶化合物であるNa_xCoO_2に対して,高分解能角度分解光電子分光実験を実施した.真空紫外光を励起光として得た光電子分光スペクトルから,Na_xCoO_2が低温においてコヒーレントな準粒子状態の波束としての伝導が支配的であることを明らかにした.一方,高温では強い電子相関により生み出されるインコヒーレントな局在電子の拡散伝導が支配的であることも解明した.さらに,軟X線角度分解光電子分光実験も実施し,上記の結果が固体内部の電子状態を反映していることを検証した.低温におけるコヒーレント伝導を電子構造(E-k関係)とBoltzmann輸送方程式から解析し,同様に解析した2次元正方格子物質と比較した結果,2次元三角格子(六方晶)に特徴的なvan Hove特異点が大きな熱電能の発現に寄与していることを明らかにした.さらに,Na_xCoO_2と同様に2次元電気伝導を示す六方晶化合物としてTiS_2の単結晶を,気相輸送法を用いて作成した.作成した試料の熱電物性を測定したところ,Na_xCoO_2と同様に大きな熱電能と金属伝導で特徴づけられることを確認し,本研究で提案する2次元電気伝導を示す六方晶化合物が熱電材料として有望であることを検証することができたと考えている.
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