研究概要 |
本年度は,まずステンレス鋼に生成する3nm程度の厚さの大気酸化皮膜についてGDOES分析を行った。購入した表面粗さ径を用いて,スパッタ後のクレータ形状を計測し,4mm径の領域が均一な速度でスパッタリングされる条件(アルゴン圧および出力)の検討を行い,条件の最適化を行った。さらに試料表面粗さの影響を検討し,十分な深さ分解能を得るには鏡面研磨の必要性が確認された。その結果,ステンレス鋼の大気酸化皮膜は外層鉄リッチな酸化物で,内層にクロムが高濃度に濃縮した酸化物が生成した2層構造であることが明らかなプロファイルが得られ,ニッケルは皮膜内層には存在せず,皮膜外層に存在することを明瞭に示した。さらに,ステンレス鋼中に存在する微量の銅が皮膜と素地界面に濃縮し,これが主に金属状態の銅であることがXPSを併用することでわかった。湿式研磨で常温ではあるが,銅が表面拡散して濃縮することが確認された。 さらに酸性および中性塩化物中でモリブデンを含むステンレス鋼を分極して生成した酸化皮膜の解析を行ったところ,耐食性改善に有効なモリブデンはいずれの溶液中においても皮膜外層に存在し,クロムリッチな皮膜内層中では欠乏していることが明らかとなった。酸化性溶液中でのこのモリブデンの濃縮した外層が溶解を抑制し,不働態化を促進することおよび中性塩化物中では,カチオン透過性のモリブデンを含む皮膜外層が塩化物イオンの侵入を抑制し,耐孔食性を改善するというモデルを支持する結果をGDOES解析から得られた。
|