鉄鋼材料の表面改質法として浸炭焼入れがよく行われる。同じく鋼中に侵入型固溶原子として知られる窒素を活用すれば、低温で浸窒処理できて形状変化が小さい、硬化能が大きい、耐食性が良い等の利点が予想されるが、基本的研究がほとんどなく明らかでない。まず、窒素吸収処理炉の購入整備を行った。水素とアンモニアガスを使うので、安全のために水素検知器ほか対策を講じた。窒素吸収処理条件を変化させて最適条件を見出すことを始めた。平行して企業の浸炭浸窒処理炉で純鉄(電解鉄を溶解した試料のほかに微量炭素含有量の影響を調べるためにIF鋼と極低炭素鋼を使用)に浸窒処理を施して特性評価を進めた。試料断面のミクロ組織を光学顕微鏡およびSEM/EBSD測定、断面の硬さ分布測定、EPMA分析の結果、表面から約120μm深さまで窒素が侵入してマルテンサイトで(高温ではオーステナイト)、当初目標を満足している。最表面はX線回折によるとごくわずかに残留オーステナイトを含むマルテンサイトで、硬さはHV900、X線残留応力測定によると約300MPaの圧縮応力の残留が認められた。耐食性に関して分極曲線測定を行ったところ、活性溶解が窒素により抑制されることは予想どおりであったが、不導態電流密度が純鉄よりも大きいという知見は意外な結果で詳細な検討が必要である。現在、疲労試験片を準備中であるが、大略の評価は終えることができた。最適浸窒条件は鋼種によって異なるようであり、機能性を目的とする合金も含めて検討を進めている。
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