研究概要 |
工業的に重要なステンレス鋼と炭素鋼において,腐食に対する水素の影響を調べた.その方法として水溶液中でカソード分極することによって金属材料中に水素を導入し,その後,動電位法で分極曲線の測定を行い,腐食挙動に対する水素の影響を調べた.水素濃度と試料内部での水素濃度の深さ方向分布とを変化させるために,適当なカソード分極電位での保持時間を変えカソード分極状態で保持した後,貴な方向に分極して,分極曲線を測定した.このようにして測定された分極曲線を解析して,腐食電位や腐食電流密度を求めて,水素濃度との関係を調べた.また,腐食後の試料表面の観察を行った.これらの実験方法により次の結果が得られた.(1)ステンレス鋼試料の場合には,カソード分極時間が長くなり,水素濃度が増加するとともに,腐食電位の値が僅かに貴に移行し,腐食電流は僅かに大きくなった.つまり,水素侵入に伴ってステンレス鋼の腐食が促進されることが分かった.(2)炭素鋼においても,水素濃度が増加すると,腐食電位の値が僅かに貴に移行したが,腐食電流は僅かに小さくなり,炭素鋼の腐食が抑制されることが分かった.(3)長時間カソード分極したステンレス鋼試料の分極曲線を測定すると,試料表面には孔食と粒界腐食が認められ,水素の侵入によってこれらが促進されることが分かった.(4)炭素鋼試料の場合には,容易に腐食し,試料表面に凹凸が形成された.カソード分極時間を長くすると,試料表面が黒色に変化するとともに,特有の臭いが発生するようになった. 一方,水素分析における標準試料を容易に作成する方法として,カソード分極に伴うパラジウム中の水素侵入と水素化物の形成についても調べた.また,ステンレス鋼における異常腐食現象の一つとして,界面活性剤による腐食挙動についても調べた.
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