カソード分極に伴う鉄鋼材料の異常腐食挙動の原因を、特に鉄鋼材料中への水素侵入に注目して、検討した。今年度は、Ni濃度そして耐食性が異なるSUS430、SUS301、SUS316、SUS304の4種類のステンレス鋼をカソード分極して表面観察と水素分析を行い、異常腐食現象の把握および水素濃度との関係を調べた。得られた実験結果は次のように纏められる: 1.カソード分極に伴うSUS301、SUS304、SUS316ステンレス鋼試料への水素侵入は、分極初期において水素拡散律速であるが、長時間分極すると表面反応律速に変化した。また、SUS430ステンレス鋼試料の場合には、分極時間にかかわらず表面反応律速であった。 2.カソード分極によってSUS430ステンレス鋼試料の表面は黒くなった。このことから、SUS430ステンレス鋼試料において異常腐食が起こることが再確認できた。また、SUS316ステンレス鋼試料を長時間カソード分極した場合にも試料表面全体が黒っぽくなり、結晶粒内に多くの線状模様が認められた。詳細な表面観察からこの縞状模様は微小クラックであることがわかった。このことから、良好な耐食性を有するとされているSUS316ステンレス鋼でも異常腐食が起こることが確かめられ、この場合には微小クラックの発生が影響を及ぼしている可能性があることがわかった。 3.長時間カソード分極すると、異常腐食が顕著となって試料が電解液中に落下することがあった。このような顕著な異常腐食は、Ni濃度の大きなステンレス鋼の方が著しかった。ステンレス鋼中のNi濃度が大きいほど多量の水素が侵入し、異常腐食現象は水素侵入と大きな関係があることがわかった。
|