外来生物種間で生じる正の相互作用の結果、在来生態系に対するインパクトが相乗的に増大する現象を侵入溶融(invasional meltdown)という。本研究の目的は、アメリカザリガニとウシガエルの相互作用が在来生物群集にもたらす侵入溶融を、野外調査と野外操作実験で明らかにすることを試みた。まず千葉県佐倉市の50箇所の水域で、すくい取りによるザリガニの相対密度と、鳴き声センサスによるウシガエルの相対密度の調査を行った。同時に、水深や植生の被度、流速、底のリター量などの環境変数も測定した。重回帰分析とAICによるモデル選択を行った結果、ウシガエルの密度にはザリガニ密度が強く効いており、その他の環境要因はほとんど影響を与えていなかった。次に、佐倉市に谷津田に5.5m四方のエンクロージャーを8基設置し、ウシガエルの有無とザリガニの有無の組み合わせからなる処理区を設けた(反復各2)。エンクロージャーの中心には1m四方の池を掘った。その結果、ザリガニの有無に関わらず、陸上のバッタ類の個体数がウシガエル存在下で減少した。しかし、地表俳徊性昆虫類には個体数の変化は見られなかった。一方、ウシガエル存在下でザリガニも個体数は減少したが、その他の水生生物に減少は見られなかった。以上のことから、ザリガニはウシガエルの個体数を決定する主要因であること、またウシガエルは陸上の植食者を減少させる潜在性を持っていること、が明らかになった。これは、水中の外来種であるザリガニが、水陸を移動する外来捕食者であるウシガエルの個体数を増加させ、その影響が陸上の植食者にも波及する可能性を示唆するものである。すなわち、本年度の研究から、生態系を横断する侵入溶融の可能性が示唆された。今後は、野外におけるウシガエルの胃内容分析や安定同位体分析、さらに移動追跡などを通して、ウシガエルの影響が及ぶ範囲を特定する予定である。
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