本研究の目的は、我々の研究グルーブが開発した生体熱物性値計測装置を用いて各種の生物について熱物性値特に放射率を計測し、その結果をデータベース化して公表することと、放射率の適応進化についての仮説を検証することである。 まずはじめに計測装置の動作確認と改修を行った。その際、データ処理系について、参照板を用いた正確な環境放射温度の算出を可能にするルーチンを加えた。また、サーモカメラでノイズが生じて計測結果に誤差をもたらしていることが明らかになったためこれに対策を施し、データ処理中にノイズを除去するようにプログラムを改良した。次にチョウ(アゲハ、キタテハ、ツマグロヒョウモンなど)と甲虫(キボシカミキリなど)の成虫について、生体の熱物性値と標本にした後の熱物性値の比較を行った。その結果放射率については、標本の値は生体と同一であるか、異なっていてもわずかな差しか生じないことが明らかになった。 これらの結果を踏まえて、大阪市立自然史博物館において収蔵されている標本を対象に放射率の計測を行った。昆虫では、チョウと甲虫を中心に百数十種についてデータを得ることができた。また、鳥類、哺乳類については、各約十種について測定することができた。熱を失うことが不利な条件下では低い放射率が進化するという仮説の検証に使えるデータとして、昆虫では、成虫で越冬するチョウの夏に採集された個体と越冬世代の個体の両方について、哺乳類では同一種で夏毛と冬毛について計測を行うことができた。 上述のように解析プロクラムを改良してより正確な環境放射温度の算出やノイズの除去が可能になったが、プログラムの改修に時間をかけざるを得なかったため、博物館での計測が年末以降にずれ込んでしまった。また、一回の計測データの解析に数時間を必要とする要になったため、データベース化して公表するまでにはまだ時間を要する。
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