研究概要 |
種子の散布から実生の定着にいたる過程は,植物の生活史におけるキーステージである。種子の形質はその生存過程に大きな影郷をもたらすが,個々の種子の形質がどのように生存過程に影響するかを研究する際には大きなジレンマが存在した。即ち,種子を破壊しなければ成分に関する情報は得られず,そうすれば種子の生存過程の追跡は不可能になる。本研究課題ではこのジレンマを乗り越えるために,日本の森林の主要構成種であるコナラの種子を対象として,近赤外分光法(NIRS)を用いて非破壊的成分分析法を開発することを目的とする。本年度は,コナラ種子に高濃度で含まれる被食防御物質タンニンを対象として非破壊計測法を検討し,検量モデルを作成した。 2006年秋に岩手県盛岡市,滝沢村にて回収した健全コナラ種子212個をサンプルとして用いた。分散型近赤外装置(NIRSystem社製、6500型)を用い,透過法によりスペクトルを測定した。種子のタンニン含有率はRadial Diffusion法により求めた。スペクトル解析にはThe Unscrambler(Camo社製)を用い,2次微分スペクトル(850-1100nm)及びタンニン含有率を基にPLS回帰を行い,タンニン用検量モデルを作成した。検量モデルの評価はFull cross validation法によった。種子サイズの影響を軽減するため、検量モデルを三群に分けて作成し,最大でR=0.91(SEC=0.50%,SECV=0.84%,bias=0.03%)の結果が得られた。今後このモデルを利用することで,成分既知種子の生存過程の解明が可能となるものと期待される。
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