研究概要 |
微細藻類が示す生物対流現象については,これまで生物物理の観点からのモデル化などが行われてきたが,生物学的な解析や生態学的な意義を解明することは行われていない。本研究は,生物対流現象を,生物学の立場から再検討し,その分子レベルでのしくみの解析と生理学的・生態学的な意義について解明することを目的としている。初年度は以下の研究成果を得た。 1.生物対流観察用に側面観察型顕微鏡を製作した。クラミドモナスの光走性は緑色を使うため,赤色光を観察光とし,CCDカメラで毎秒20フレームという高速でハードディスクに記録できるようにした。 2.作製した顕微鏡を用いて,以下の3通りの方法で,クラミドモナスの生物対流を観測した。(1)通常の正の光走性をもつ株に上から光を当てる,(2)負の光走性を持つ株に下から光を当てる,(3)通常の株を密度の高いPercollに懸濁し,下から光を当てる(倒立対流)。この3番目の観察の成功により,従来から考えられている生物対流成立の仕組みが正しいことが確かめられた。更に,倒立対流の詳細な観察から,生物対流確立までには,(1)細胞の集結,(2)集まった細胞の衝突,(3)細胞の激しいぶつかり合いによる「小噴火」,(4)小噴火による細胞蓄積の不均化,(5)著しい細胞集積からのプルーム(上昇細胞流)の発生,(6)プルームによる水の流れの形成,(7)周囲での水の下降と渦巻き走性(gyrotaxis)による下降細胞流の形成 3.記録された細胞運動をImageJにより数値化し,さらに小噴火,プルーム,下降流における細胞運動を統計的に解析した。
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