研究概要 |
Runxは,Runtドメインをもつ転写因子で,ヒトやマウスでは,Runx1, Runx2, Runx3が知られている。Runx3は,転写因子であるSmadと結合し,transforming growth factor β (TGFβ)ファミリーのシグナル伝達に関与することが知られている。Runx3ノックアウトマウスを用いて,Runx3の生殖内分泌系における変化を調べたところ,重大な障害が多数認められた。雌Runx3ノックアウトマウスにおいては,無排卵で子宮の発達は未熟であった。子宮細胞において,発情ホルモンによる細胞増殖の促進作用も認められなかった。未成熟Runx3ノックアウトマウスに過排卵処理をしたところ,野生型マウスと同様に排卵を誘発することができた。したがってRunx3ノックアウトマウス卵巣にも生殖腺刺激ホルモンに対する反応性があることが分かり,生殖腺刺激ホルモンの分泌調節機構に異常が生じている可能性が考えられる。さらに子宮内膜におけるTGFαとinsulin-like growth factor-I (IGF-I)の発現を解析したところ,発情ホルモンによる両成長因子遺伝子の転写促進効果がRunx3ノックアウトマウスにおいて低下していた。発情ホルモン受容体α mRNAがRunx3ノックアウトマウス子宮において低下していた。しかしながら,TGFαとIGF-1による子宮内膜細胞の増殖作用には,Runx3ノックによる影響は認められなかった。以上の結果から,Runx3ノックアウトマウスにおける発情ホルモン反応性の低下は,発情ホルモン受容体αの発現の低下ならびに成長因子遺伝子の発現低下に起因することが考えられた。今後,Runx3の標的遺伝子を明らかにする必要がある。
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