屋久島のVestalenula corneliaの個体群の遺伝的多様性を解析し、オス対メスの比率が1対200と極端にメスに偏っている同個体群において有性生殖が行われているかどうかを探った。しかしターゲットとした遺伝子領域のPCR増幅が上手くいかず、現状では古代無性生殖生物の代表者であるDarwinula科貝形虫に過去2億年間で初めて有性生殖が行われたことを示す実験は継続中である。 屋久島のVestalenula corneliaの個体群の空間分布を、ほぼ毎月1回の試料採取を通して、調べた。この結果季節的な生息空間移動を確認し、同個体群が冬期は底質深部(〜10cm)に潜る間隙性の生活様式を、夏期は表層に生息する表在性の生活様式を示すことが明らかとなった。このような淡水性貝形虫の季節的生息場の変化は従来確認されておらず、初めての認定と考えられる。この個体群の季節的移動とオスの出現の関連性についてはまだ十分に議論ができていないが、現在までにオスの確認された季節が冬期であることから、オスが不在と考えられてきた一因は、この「内在性(間隙性)-表在性」変化にあるのかもしれない。 能登半島で新たにVestalenulaの生息地を確認し、この場所の定期的試料採取を行い、屋久島で確認された個体群動態の特徴が普遍的なものかどうかを調査した。Darwinula科貝形虫に関する形態解析の成果は本年度2編の論文として出版された。
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