表皮や神経などの上皮系細胞の増殖・分化制御機構におけるイノシトールリン脂質代謝の役割を明らかにすることを目的とした。「上皮組織幹細胞の分化において、PIP2からPLCに向かうシグナルとPI3キナーゼに向かうシグナルのスイッチング、即ちPIP3/PIP2バランスが分化と増殖の分岐点になる」という仮説を立て、それを検証することにした。本年度は特にPLCδ3の神経突起形成における役割を明らかにした。 神経機能におけるリン脂質代謝の役割の解析:極性の高い神経細胞においてPLCδ3は多く発現している。Neuro2A神経芽種細胞でPLCδ3のsiRNAを行った所、神経突起伸長が有為に抑制された。またこの抑制された細胞にPLCδ3を戻すと突起形成は回復したことから、PLCδ3は神経突起形成に関与していることが明らかになった。また活性型PLCδ3変異体を発現させると神経突起形成が顕著に促進されることから、PLCの活性が突起形成に重要であることが判明した。次にPLCδ3による神経突起形成のメカニズムを検討した。神経突起形成は、Racやcdc42などの低分子量Gタンパク質によって正に制御されている反面、Rhoによって負に制御されていることが報告されている。そこでこうした低分子量Gタンパク質の発現を検討した所、通常分化に伴い減少するRhoの発現が、PLcδ3siRNAを行った場合には減少しなかった。またRhoの下流分子であるRhoキナーゼの阻害剤によって、PLCδ3siRNAによる神経突起形成阻害が回復した。更にPLCδ3の過剰発現により、Rhoの発現量が阻害されることが判明した。こうした結果から、PLCδ3はRhoの発現量を抑制することにより、神経突起伸長に重要な役割を担っていることが明らかになった。
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