研究概要 |
細胞が増殖や成長を停止した状態をGO期と呼ぶ。GO期の特徴は、細胞が外部の環境条件に合わせ素早く成長を停止し(GO状態)、かつ急速に増殖サイクルに戻るというその反応の素早さにある。GO状態は高等生物から酵母にまで広く見られる現象であり、とりわけ興味深いのは、いずれの生物種も比較的小さな分子であるアミノ酸や糖に対して、その存在の有無を正しく検知し、細胞の増殖のタイミングを正確につかむという、そのシグナル伝達経路の正確さと早さである。そのシグナル伝達経路に位置する因子としてTSC1/2が知られている。申請者は、遺伝学的操作が容易な分裂酵母のtsc1^+・tsc2^+遺伝子をモデル系として用いている。tsc1^+とtsc2^+のいずれかの遺伝子を欠損する変異株(Δtsc1,Δtsc2)では、栄養源に対する応答が異常になる。Δtsc2の形質を抑圧する変異株の取得を試みたところ、ユビキチンリガーゼE3(Pub1)の変異株とエンドサイトーシスに関与するアレスチンのホモログAny1の変異体を得た。ユビキチンリガーゼPub1とアレスチンホモログAny1の変異がTsc2の変異を抑圧する機構を明らかにすることを目的に今年度は研究を行ってきた。 Pub1, Any1それぞれの変異体では、アミノ酸受容体の局在制御が異常になることがわかった。これは、Pub1/Any1の変異により、アミノ酸受容体をエンドサイトーシスにより細胞内部に取り込めなくなった結果であると考えられる。このことは、TSCの異常はエンドサイトーシスを利用したアミノ酸取り込み・感知機構の異常を引き起こしている可能性を示唆するものである。申請者はRhb1抗体による免疫沈殿を行ったところ、Rhb1とともにPub1も共沈してくることがわかった。これらのことから、Rhb1は直接的にPub1に働きかけてアミノ酸受容体の局在制御を行っている可能性が示唆された。
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