蛋白質コード領域内にナンセンスコドンが存在する場合、細胞はそのようなナンセンスコドンをもつ異常なmRNAを選択的に分解し排除するナンセンスコドン介在型mRNA分解(nonsense-mediated mRNA decay; NMD)を備えている。NMDにおいて、長らく、スプライシングと共役してmRNA上に付加されるEJCが必須と考えられてきた。しかしながら近年EJCに依存しないNMDの存在が明らかにされた。レトロウイルスに代表されるRNAウイルスは、イントロン配列をゲノム上にもたないことが知られている。この「EJC非依存型NMD」はイントロンを持たないウイルスゲノムRNAを排除するために存在するという仮説を立て解析を行った。 イントロンをもたないβグロビン遺伝子では、イントロンをもつβグロビン遺伝子と比較して、ナンセンスコドンがもたらすこれらmRNA分解の程度は弱いものであった。意外なことに、ナンセンスコドンの有無に関わらず、イントロンをもたないβグロビン遺伝子より産生されたmRNAは、イントロンをもつβグロビン遺伝子より産生されたmRNAと比較して、急速に分解された。さらに、この分解過程はmRNA分解の律速段階であるpoly(A)短縮化過程を促進することによって引き起こされることを、poly(A)短縮化酵素のドミナントネガティブ変異体を用いた解析、および高解像度Nothern法をもちいたpoly(A)鎖長解析により明らかにした。 イントロンをもたないウイルスゲノムRNAを選択的かつ速やかに排除する防御機構は、ウイルスゲノムRNAが内在性にもつナンセンスコドンではなく、イントロンをもたないという構造に起因することが示唆された。
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