microRNA(miRNA)は22塩基程度のRNAであり、mRNAの3'側非翻訳領域(3'UTR)と塩基対合し、標的となる遺伝子の発現を抑制する。miRNA研究は様々な生物にて行われており、線虫C.elegansでも150種以上のmiRNAが発見されているが、ほとんどのmiRNAについて機能は明らかになっていない。miRNA機能の理解には標的遺伝子を知ることが重要であり、C.elegansにおけるmiRNA標的遺伝子全体像の解明を目標に、新たに考案したスクリーニング法の開発を進めた。 この方法は、標的mRNAに結合した内在性miRNAをプライマーとする逆転写反応によりcDNAを合成し、対象とするmiRNAの配列を用いたPCRを組み合わせることで、対象miRNAの標的遺伝子に由来するcDNAをクローン化するものである。C.elegans lin-4 miRNAを対象に行ったところ、既存の標的遺伝子であるlin-14の3'UTR配列からなるクローンを多数得ることができた。未知標的遺伝子の同定も試み、C.elegans let-7 miRNA変異体が示す致死表現型に関わる標的遺伝子を探したところ、得られたクローンの中からK10C3.4遺伝子を以下の結果より同定した。まず、K10C3.4プロモーターによりレポーター遺伝子が発現する組織の一部は、let-7遺伝子の発現組織と重なる。この発現は3'UTRをK10C3.4のものに置き換えると抑制されるが、この抑制はlet-7変異体では部分的に解除される。let-7変異による致死は、標的遺伝子発現抑制の欠如による標的遺伝子タンパク質の異所産生によると考えられるが、K10C3.4遺伝子に対するRNAiによりタンパク質産物を枯渇させると、少数の個体が致死表現型を示さず生き延びた。逆にK10C3.4遺伝子の導入株にてこの遺伝子産物を強制産生させると、少数個体がlet-7変異体様の致死表現型を示し、K10C3.43'UTRまで含む遺伝子の導入株では、この表現型を示す個体の割合は低下した。
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