ヒストンの翻訳後修飾は、エビジェネティックな遺伝子発現制御、DNA損傷修復、染色体の凝縮と分配などのゲノムの維持と発現に重要な役割を果たしている。しかし、その修飾を生きた細胞内でリアルタイムに観察することはほとんど行われていない。そこで、ヒストンの修飾が「いつ」、「どこで」起こるのかを系統的に明らかにするための実験手法を確立することを主な目的として、本研究を進めた。昨年度の研究で、ヒストンH3 Ser10のリン酸化(H3S10P)抗体などを産生するハイブリドーマから、IgGの重鎖と軽鎖をそれぞれクローニングし、GFP融合一本鎖可変領域抗体(GFP-scFv; green fluorescent protein fusion single-chin variable-region fragment)として培養細胞中での発現を試みた。しかしながら、ほとんどのGFP-scFVは細胞質中で凝集してしまい、染色体への結合は見られなかった。この要因として、可変領域の蛋白質の折りたたみが正常に行なわれないことやS-S結合が必要であることなどが考えられた。そこで、精製した修飾ヒストン抗体を蛍光標識し細胞に直接導入することで、その活性が細胞中でも保持されるかどうかを検討した。その結果、ほとんどの抗体は期待される局在を示したことから、抗体のエピトープへの結合能は細胞中でも維持されることが明らかになった。この精製抗体からFab(抗原結合断片)を調製し、同様に細胞に導入したところ、やはりそのエピトープへの結合能は保持されていた。従って、一旦適切に折りたたまれた重鎖と軽鎖が複合体を形成すると、細胞内環境でも安定にその構造が保持されると考えられた。今後は、ScFvではなく、Fabあるいは全長抗体としての発現を試み、ヒストン修飾のモニター系を開発したいと考えている。
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