ほ乳類の受精現象をリアルタイムで観察するため、顕微鏡および撮影装置を作製し、その顕微鏡システムを用いて精子先体反応のタイミングを明らかにした。微分干渉観察と蛍光観察を連続的に行えるようにするため、ハロゲン光源と水銀ランプ光源のそれぞれの光路にメカニカルシャッターを入れた。このシャッターを交互に作動させることで10msec以下の作動時間で光源の切り替えが行えるようになった。 動く精子の頭部の先端に発現する緑色蛍光蛋白質(GFP)の蛍光を捉えるため、超高感度カラーカメラを顕微鏡に搭載した。その結果、素早く動く精子を微分干渉観察により克明に撮影しながら、その時点での精子先体反応の状態(先体胞にGFPを発現したもの)を蛍光観察に切り替えて判断することができるようになった。これまでマウスの精子先体反応は卵の透明帯上で誘起されると考えられてきた。しかし、この新しいリアルタイム観察顕微鏡を用いて観察したところ、精子先体反応が既に完了している精子が透明帯へ結合し、それらの精子が卵細胞膜へ融合することがわかった。これはこれまでの定説を覆すものであり、関連する複数の知見もまた見直される必要があることを意味する。すなわち、これまで透明帯糖蛋白質が精子先体反応の誘起物質と考えられてきたが、それ以外に真の誘起物質が存在することが想像される。さらに、先体反応前の精子が透明体へ接着することが受精に必須プロセスと考えられてきたが、これも再考される必要がある。それに伴って、反応前の精子細胞膜に局在する受容体分子が透明帯接着に関与するべきであるという根拠が失われたことにより、先体胞内部に存在する分子も透明帯接着のプライマリー因子として考え直されるべきであろう。
|