本研究の目的は、熱帯林内の食物量と気温や湿度など物理環境の変動に対し、野生チンパンジーとボノボの森林内空間利用がどのように変化するかを明らかにすることである。今年度は野生チンパンジーについて調査を行った。 熱帯林内の林冠付近は地上部にくらべ気温が高いのが一般的傾向である。アフリカの大型類人猿調査地でも同様であり、気温の高くなる日中、チンパンジーやボノボは高温になる林冠付近を避け、地上付近を利用することが多かった。今回、森林内の気象の季節変化がチンパンジーの空間利用に与える影響を調べるため、雨期と乾季で森林内気温を比較した。 調査は西アフリカ・ギニア共和国のボッソウ地域で、2007年8月から9月(雨季)および2008年1月から2月(乾季)に行った。一次林では、地上1.5m・10m・16m(樹冠は22m)、二次林では1.5m・10m・17m(樹冠18m)の、各々3カ所に自動温湿度記録計を設置し、10分ごとに気温と湿度を記録した。 調査期間中の最高気温を平均すると、林冠部と地上部の気温差は雨季で3.7℃、乾季で大きくなり、6.3℃であった(二次林)。林内の温度環境は、雨期・地上付近の23.4℃から、乾季・林冠付近の34.6℃まで多様であり、チンパンジーにとって暑くも寒くもない快適な空間は季節により変動するものと考えられる。大型類人猿の生息地で、森林内の気温の垂直構造およびその季節変化がとらえられたのは初めてであり、人類の地上生活の起源を考察する上で重要な情報と考えられる。今後、チンパンジーの行動記録を解析する予定である。
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