本研究の目的は、カニクイザルの色盲遺伝子キャリアの色覚を調べ、視物質遺伝子を巡る進化についての新たな手がかりを取得することである。ヒト女性のキャリアについては、正常とは異なる色覚を示唆するいくつかの報告があるが、その詳細は不明である。一方、キャリアの色覚についての動物実験はこれまで全く行われていない。そこで本研究では、M視物質とほぼ同じ波長吸収特性を持つハイブリッド遺伝子(L4M5)を1本のX染色体上に持つキャリアのメスを対象として行動テストを行い、キャリアの色覚と自然条件におけるその優位性について検討する計画である。平成19年度は、1頭のキャリアのメスを用いて、(1)石原式を模した色覚テスト票による色覚判定、(2)カラーカモフラージュ条件での色・図形弁別の行動実験を行った。予備的な解析では、石原式を模した色覚テストでは正常、カラーカモフラージュ条件では色盲個体に類似した優位性を示した。さらに、(3)自然の写真を用いたカテゴリー化をテストするために、飼育施設で接することのできるサル、ヒト、植物の写真と、彼等が見慣れていないサル、ヒト、植物の写真を多数用意して刺激画像づくりを行った。 また、1頭のサルでヒトとサルの写真による標本見本合わせ課題の予備訓練を行った。
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