本研究では昆虫の生命力について次のような仮説を立てた。昆虫は外部環境からのストレスに比較的弱く、ある閾値以上のストレスに遭遇した場合には脳内でストレス応答性の特異的反応が進行し、大規模な神経細胞死によって最終的に個体死を招く。この作業仮説を分子レベルで証明するため、脳内細胞間でのストレス特異的情報伝達経路の解明を目指す。さらに、その過程で同定できるであろうストレス応答性遺伝子、また、脳内生理活性物質(特に、上記のカテコールアミン様物質は注目に値する-以後、"X因子"と呼ぶ)を種々の応用研究へ展開させるための基盤を確立することが本研究の目的である。 ミールワーム幼虫に各種ストレス(高温、低温、病原性微生物、紫外線、酸化など)を与えたところ、全てのストレスで脳や血液中にドーパミンと性質の似た生体アミン様物質(X因子)の濃度上昇が確認できた。この物質は、幼虫の死亡率に相関があり、X因子濃度が約10ピコモル/brainに達すると24時間以内にほぼ全ての個体が死亡した。
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