研究概要 |
高濃度(5%)の炭酸ガスを含む雰囲気を用いて、炭酸ガスを増殖に要求する微生物株の探索を実施した。その結果、100株を越える炭酸ガス要求性ないし応答性の細菌株を分離することに成功した。アルカリ性を示す環境試料ならびに海洋試料を分離源として使用したときに特に分離頻度が高かった。取得された炭酸ガス要求性の分離株には既知の菌との16S rRNA遺伝子の相同性が低いものが高い頻度で含まれており、炭酸ガス依存性のためにこれまで分離培養されていなかった菌が存在すること,ならびにそうした菌群を探索するために炭酸ガス通気が有効な方法であることを示唆していた。また、炭酸ガスへの応答にはいくつかの異なるタイプがあり、増殖を完全に依存するタイプに加え、増殖や運動性が顕著に促進されるものや、コロニー形状には大きな影響はないが色素の生産性が依存するものが認められた。これらの菌における運動性や色素生産に対する炭酸ガスの効果は,一次代謝における基質としての役割とは別に,炭酸ガスが遺伝制御のスイッチを入れる信号分子としても機能することを暗示している。 関連して、炭酸ガス要求性を見いだすきっかけとなった共生細菌Symbiobacterium thermophilumの生理に関する実験を推し進め、そのトリプトファン分解酵素が炭酸ガスによって転写レベルで誘導される現象を発見した。得られた証拠から、炭酸はこの菌の一次代謝の基質として要求されるのみでなく、特定のアミノ酸分解酵素の発現とそれに基づいたエネルギー代謝を誘導する信号としても重要な因子であることが強く示唆された。
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