研究概要 |
高齢社会を迎えた日本において、生活習慣病患者数は今後いっそうの増加が予想され、医療費の膨大化が懸念される。生活習慣病の多くは脂質代謝異常に起因することから、薬物治療に頼らず生活習慣病を予防することが望まれ、そのために食品の機能活用が期待されている。しかし、食品成分の中でも生理的効果の検証されているイソフラボンは過剰摂取が懸念されており、安全性を考慮した上で、摂取量の設定に困難さを伴う。また、極微量食品成分を有効なレベルまで摂取するには、経済性の観点から実現しない例もある。これらを考慮した時、アミノ酸は安価で供給され、代謝回転が速いことから多量摂取が可能で、機能性食品素材候補としての優位性は突出している。本研究では、個別のアミノ酸が単独で脂質代謝を変動させ、生活習慣病予防に寄与するかについて、分子細胞生物学的評価を行い、候補アミノ酸についてはその機能の分子レベルでの作用機序を解析する。 脂質代謝関連遺伝子のプロモーター活性を変動させるアミノ酸の解析 ヒト培養肝細胞Hep G2を低濃度アミノ酸培地で4時間程度培養すると、細胞内の遊離アミノ酸レベルは培地のそれと近似してくることが知られている。低濃度アミノ酸培地を用意し、これに各種アミノ酸を1種類ずつ過剰量添加した培地を用意する。Hep G2細胞に例えばLDL受容体遺伝子プロモーター挿入レポーター遺伝子を導入し、アミノ酸添加培地で12時間培養し、その後ルシフェラーゼアッセイを行う。LDL受容体遺伝子発現を充進するアミノ酸を検出する。同様にして、脂質代謝関連遺伝子のプロモーター領域を挿入したレポーター遺伝子(およそ30種類程度)について解析を行った。その結果、脂質代謝関連遺伝子の発現を特異的に上昇させるアミノ酸としてグルタミンを特定できた。 候補アミノ酸の内因性応答遺伝子発現制御の確認実験 上記実験により得られた候補アミノ酸に関して、添加培地でHep G2細胞を培養した際に、目的の遺伝子が予想された応答を示すかについてreal-time PCR法を用いて検証した。その結果、内因性応答遺伝子も同様に応答することが確認された。以上の結果は、肝細胞内においてグルタミンがある種のシグナル伝達を介し,各種転写を変動させる機能を持つことを意味している。さらに、その分子機構について解析を進めている。
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